走れ!東京ハイヤーマン 

お客様への無意味な話かけはご法度

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羽田空港の出迎えで

羽田空港の国内線到着階は夕方5時から7時にかけて混雑のピークとなります。
一直線に伸びるバス乗り場は帰宅を急ぐ人びとで溢れんばかり、手際よくお客様をピックアップしないと、特にこの時間帯は間髪入れずになだれ込む路線バスから容赦ないクラクションを浴びせられたら最後、列をなしてバスを待つ人たちの視線が一気にこちらに突き刺さります。

下手をすると、案内の係員からは早くどけと怒鳴られますから、機敏な動きを要求されるところです。

「お帰りなさいませ」

お客様から奪うように素早く手荷物を受け取ると、空いている方の手でリアドアを開けドアサービス
荷物を後部トランクに格納して運転席に滑り込み、シートベルトをする前にハンドルを先に右に切りながらアクセルを踏見込んで
後方から来る車両に気をつけながら車を発進・・・

空港のお出迎えも回を重ねていくうちに
この一連の動きに無駄がなくなりました。

無言で乗車されるお客様

ところで
普段なら高速入り口あたりまで来れば、お客様と一言二言なにかしら会話を交わすところなのですが、よく利用され勝手知ったるお客様でも、無言のまま車に乗り込まれる時があります。

こういう時はこちらから声をかけるのはご法度なこと。
「もしもし・・」
案の定、直ぐに後ろから電話の声ーーー

この一瞬の空気の読み・・・今ではうまくできるようになりました。

「社長の稟議は通したんで…
F社はトータルで攻めてくるから先方のP社はその中に組み込まれていくようになるんや。
完全にF社のコントロール下に入るということだよ。
でもうちは違うぞ、うちはね、あくまで先方を前に立てて中に入りこんでやっていくんやからな。同じ10億の案件でもその辺の差別化はテーブルできちんと説明しなきゃダメよ
部長主導でお膳立てできたら社長に来ていただいて話をまとめるんで、よろしく願います。」

電話を終えると、大きなため息。
商談が最後の詰めの段階に入った模様です。
どうやらお客様の頭の中は
移動中の飛行機内で組み立てた交渉の段取りを引きずりながら、迎えの車の中から電話で部下に伝えようとされていたことがこの時はっきりとわかりました。

これって駆け出しのころの私だったら余計な声掛けなどをして、きっと顰蹙(ひんしゅく)を買っていた場面です。

『お客様が頭の中でいろいろ考えていたことやアイディアが乗務員の無意味な声かけによって吹き飛んでしまうことがあるから気を付けるように』

昔ハイヤー研修で教官から指導された言葉が
ふと頭をよぎりました。

まさにこんな場面の時のことだったんですね。

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