走れ!東京ハイヤーマン 

「午前様」がいなくなった──ハイヤードライバーの夜事情

ある晩、お客様が車に乗り込むなり、ふとつぶやかれました。

「いやあ、今日は“午前様”にならなくて助かったよ」

この“午前様”という言葉、最近ほんとに聞かなくなったなあと、しみじみ思いました。

かつて、夜の銀座や赤坂での会食といえば、一次会・二次会は当たり前。午前0時過ぎにようやくお開きになる、そんな光景は日常でした。でも、今や午後9時にはお開き。お酒も控えめで、タバコも吸わず、まっすぐご自宅へ帰られるお客様が増えた印象です。

豪傑たちの夜が静かになった

同僚のハイヤードライバーたちと話していても、最近よくこんな声を耳にします。

「昔の親父さんたちは遊んだよなあ…いまはみんな真面目すぎるくらいだよ」

もちろん、時代が違うんです。かつての“酒豪”たちも、健康診断で医師にひとこと言われれば、お酒もタバコもすっぱりやめてしまう。それが今の時代の“強さ”なのかもしれません。

さらに、不況やコロナの経験が経費感覚をシビアにしたことも大きいです。「無駄を省く」動きの中で、ハイヤーの利用もぐっと抑えられるようになりました。

SNS時代の“人目”が行動を変えた

景気が上向いてきた企業もありますが、だからといって昔のように“豪快に夜を楽しむ”わけにはいきません。SNSの普及により、どこで誰が見ているかわからない。社員や取引先の目を気にして、社用車を夜の街で使うこと自体を控える会社もあります。

まさに“スマート”な時代。けれど、ちょっぴり寂しさも感じてしまうのは、私だけでしょうか。

働き方改革とドライバーの現実

2019年頃から加速した「働き方改革」。大手広告代理店の過労死事件や、バス運転手の長時間労働による事故などを背景に、国が本腰を入れて労働環境の見直しに動きました。

ハイヤー業界にも当然その波は押し寄せています。残業規制が強化され、ドライバーにも時間管理が厳しく求められるように。でも、正直な話――残業なしでは生活が厳しいのが現実です。

日中はあまり稼働がないこの仕事、夜の仕事があって初めて収入が成り立ちます。だからこそ、「柔軟に運用してほしいな」と思うこともしばしば。ですが、労基署の目は厳しく、会社側も規定を守らなければペナルティを受けるリスクがあるわけです。

社長専属ドライバーの“光と影”

首都圏にある上場企業の会社役員、特に会長、社長には専用の車両があてがわれます。こうした車を担当するドライバーはほぼ9割方ハイタク会社から派遣された人。知名度高い会社となると、なんとなく名誉職のような感じで、担当者は自尊心をくすぐられます。でもこれがまた一種の“格差”を生むことも…。

同じ会社の専属でも、社長担当のドライバーは走行距離も拘束時間も長いため、どうしても収入面で有利になってしまうのです。「なんだかなあ」と思いつつも、これが現実。

ところが、残業規制のあおりを受けて、今まで一人で請け負っていた車両を、二人、三人で分担して担当するところも出てきました。これによって労働時間は短縮され余裕が生まれましたが、残業が減った分、手取り額に大きな影響を受けています。

金は天下の回りもの。だけど…

最近では「働き方改革」なんて言葉も、あまり聞かれなくなってきましたね。その陰で、少しずつ給与体系の見直しも始まっているようです。企業努力でベースアップしてくださる会社もありますが、物価高騰に追いつかず、うまみはありません。

でも、結局のところ、「金は天下の回りもの」。私たちドライバーにとっても、うまく“回って”きてくれることを願いつつ、今日も一人、ハンドルを握っています。

 


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