「ちょと運転手さん」
「はあ」
「今進路変更禁止区域であなたの車は車線変更しましたよ」
「ええ??」
白バイのサイレンが鳴ったのは気づきましたが
まさか自分の車だったなんて・・・
「ちょっと車をあちらの端に寄せていただけますか」
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どうやら、交差点に進入する直前に無意識にハンドルをきり、
黄色の線をまたいで車線変更していたようでした。
しかし、ちょっと前の記憶をいくらさかのぼって思い出そうとしても、いわゆる‘身に覚えがない’のです。
違反で捕まったことよりも、やった記憶がないことの方がショックが大きかったのは言うまでもありません。
警官は私の犯した行為を再度説明して確認したあと、
手持ちの書類にペンを走らせながら、
「営業車ですよね。どうぞ気をつけて下さい」
と戒めの一言を告げると、びりっと破いた紙きれを私の方に差し出しました。
減点1
反則金6000円
違反を犯した後の処理
故意であれ過失であれ、交通違反を犯した場合、警察の処理が終わったらすぐさま営業所に連絡を入れることになっています。
でも、中には申告せず、黙ったままいる乗務員がいるんですね。
会社はそういう輩を取り締まるため、運転記録証明を定期的に取り寄せていて、今では、そういう無申告男子はいなくなりつつありますが・・・
私 「もしもし、乗務員の▲▲です。」
デスク 「お疲れ様です。どうしました?」
私 「はい、あの・・違反でつかまって…しまいました」
デスク 「どんな違反ですか」
私 「黄色い線をまたいで・・・進路変更禁止違反です。」
デスク 「そうですか。で、お客様は?」
私 「空車でした。」
デスク 「わかりました。では、営業所に帰ってから報告書を書いて出して下さい。」
私 「はい。申し訳ありません。」
営業所に帰庫するまでなんと重たい時間が流れたことか。
特に今回は記憶が飛んでいたことに衝撃を受け、気持ちはいつになく落ち込みました。
若いつもりで、のんきに構えていた自分に、急に「年齢」の数字が重くのしかかってくる、そんな「事件」だったのです。
乗務員の平均年齢は45歳を超えています。
特に50歳代にはいると、加齢による大小様々な障害が生れるとはよく聞く話。
だんだんと物忘れがひどくなる。
一つのことに固執する。
心身共に柔軟性がなくなっていく。
こうだと思い込みが強くなる。
体臭 口臭といったいわゆる加齢臭も気になるところ。
体の変化と共に心もかたまり、頭の回転も段々とキレがなくなっていくのです。
加齢による心身の変化は容赦なく襲ってくるんですね。信じがたい現実をみせられました。
営業所に戻ると、自分よりも一回りも若い社員から
「どうしたんですか?しっかりと確認しないと困りますよ。まあ、空車だったのが不幸中の幸いでした。はい、これ、報告書を書いて出してください。所長の方には私から報告しておきますが、あとで呼ばれると思いますので。」
ふと、いつも座っている所長の席に目をやると、忙しそうに電話応対する姿が目に入ってきました。
どかっと座り、小さなため息をもらして早速報告書にペンを走らせるのでした。
自分の体をよく知れ
まさか報告書に「記憶がない」などとは書けないでしょう。
所長から訓示を受けた際も一言、
「無意識にハンドルをきってしまいました」
と、あまり言い訳がましく言わないよう、簡潔に状況を説明しました。
「以後気をつけます。申し訳ありませんでした。」
と、自分の非を認めて陳謝し、ようやくその場を解放されました。
加齢による様々な心身の変化は致し方ありませんが、問題はその変化にどう対応するのかです。
もう限界だな・・・何を思ったのか、迎え場所を大きく勘違いして、まったくあさっての場所に車をつけて待機したという凡ミスをおかし、「もう潮時だ」と言い残して会社を去ったベテラン乗務員がいましたが、自分の限界を知らされる前に加齢対策をきちんと講じておきたいものです。
気づいたら、即行動・・・ですよね。
【参考】