ハイヤーマンのサラメシ

お昼時、NHKを見ていましたら
中井貴一さんの語りによる「サラメシ」という番組を偶然目にしました。
ご存知でしょうか。

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サラメシ
すなわちサラリーマンの昼飯のことで
毎回取り上げる人物の昼飯のひと時を紹介しつつ、
その人の仕事や生き方について、
中井さんの味のある語りで綴るという番組です。
私が見たのは木曜日昼間再放送されたものだったようで
実際には月曜日の夜10時55分から放送しています。

日本一長い距離を走るバス路線

さて
その時話題にしていたのは
公共バスにおいて高速道路を使わない路線では日本一長い距離を走る路線バス
奈良交通(株)八木新宮線の路線バス乗務員の紹介と
その人のサラメシ

「運転手」と聞いて、職業がら本能的に惹き込まれてしまったわけです。

今回取り上げたバスの運転手さんは勤務15年あまり
朝、奥さんに作っておもらった弁当をもって営業所へ
そして、20分ほど出庫前の点検を終えると
バスは約6時間半かけて100キロ先の目的地まで運行します。

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くねくねと曲がる山道を走り
丁度昼時になりますと、運転手は決められた休憩所で
たった一人で弁当を開くのです。

片道に6時間半もかかるということは
目的地に到着したらその日の仕事は終了。
そのまま引き返さずにそこで一泊して
再び戻りのバスを運行させて帰ってくるという生活サイクル。
ですから、帰りのサラメシはいつもコンビニ弁当などですませるといいます。

たった一度の忘れられないサラメシ

勤務15年の間
来る日も来る日もたった一人でサラメシをかきこんでいる
弁当のボリュームも、実に質素
食べる楽しみというより、栄養補給に摂取するのだといってました。
食べすぎると眠気が襲ってくるから
量を調節しているというのが質素な弁当の本当の理由らしいのです。

そんな一人のサラメシも、
これまでにたった一度だけ
楽しい昼のひと時を過ごした思い出を
エピソードとして語ってくれました。

それは
この運転手さんには一人娘がいて
大学入学後に、通学のため家を出てしまったらしいのですが
しばらくしたある日のこと
その大学生の娘さんから突然に

「父さんのバスに乗ってみたい・・・」
そんな要請を受けたんだそうです。

年頃になってからというもの、「おじさん臭い・・」などと言って
父親を煙たがり敬遠していた娘さんに、
何か心境の変化があったのでしょうね

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その日は娘をバスに乗せて走り
いつものようにお昼の時間を迎えると
この運転手は娘と親子水入らずでお弁当を食べた・・・
至福の時だったのでしょう

15年勤務してたった一度の忘れられないお昼になったというのです。
毎日、毎日同じ道を同じ時間に通過させる
都会で生活している者にとっては
あまりに単純すぎて刺激のない気の遠くなるような仕事を
真面目にコツコツと15年も持続させてやっている姿

公共交通機関として人々の生活を陰で支えながら生きるその姿が
とても美しく感じられました。

ハイヤーマンのサラメシは?

さて、我々ハイヤーマンたちのサラメシはどうでしょうか

お客様は著名人や社会的地位のある方々
ホテルでランチなんて日常よくあることですから
そういうお客様を高級車でエスコートするハイヤーマンたちのサラメシは
そこそこのものを食べているであろう・・・
そう見えるでしょうか?

しかし、私の周りを見渡してみると
豪勢な、はぶりよい食事とはかけ離れた
ごく普通のサラリーマンの食事をする人がほとんどなのです。

それこそ、愛妻弁当を持ってくる人もいるし、
コンビニ弁当や、カップラーメンで済ます人も結構います。
財布を奥さんにガッチリ握られている人は
見ていて気の毒になるほど倹約、節約しています。

偉そうに言っている私も同様で
昼間仕事がなく待機を強いられている時は
近所にあるお馴染みチェーン店「すき家」「松屋」「吉野屋」
「ゆで太郎」「小諸そば」「はなまる食堂」「なか卯」
といった
1回せいぜい500円前後でおなかを満たしてくれるお店の暖簾をくぐるのがほとんどです。
たまにオリジンで弁当を買って営業所で食べることもあったりしましてね。

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だいたい自宅を朝6時台に出ますから
朝食は早い時間に簡単に済ますことが多く
そうなると、
お昼は12時を待たずにおなかがギュルルと鳴り出します。

都心に営業所がある関係で
12時になると周囲の飲食店は軒並み人であふれ
コンビニでさえも買い物するのに長蛇の列
ですから、昼間予定のない乗務員たちは
12時前には外で昼を済ます人がほとんどなのです。

すなわち、
一般サラリーマンのように
昼休みが決まっているわけではなく
各自その日の予定が変わるため
それにあわせて食事も休憩時間も調整をするわけです。

営業所はまるで飯場

営業所によっては
所内に食堂があるところがあるようでが、
私のところにはありません。

そのかわり、冷蔵庫、炊飯器、電子レンジ、トースターと
組合が出資して揃えられた家電
そして、包丁からフライパン、鍋などもあって
定時後、残業がある人の中には
自分で惣菜を買ってきて
ササッと料理をして食べるつわものもいるんです。

特に夜の営業所はまるで「飯場(はんば)」と化すんですよ。

ハンバ?
もうこの言葉は死語になりつつあるようで
きっと若い世代はイメージが湧かないかもしれませんが・・・

作ったおかずを分けてくれる気さくな先輩がいると
その場がいっぺんに和んだ雰囲気になり
あまり大きな声では言えませんが
お乗せしたお客様の話が飛び交って盛り上がることもあります。
本当はまずいんですけど・・・

特に夜は営業所内は女っ気がありません。
男所帯のむさくるしさは確かにあるんですが
近くのコンビニで買ってきた食べ物を広げて、
ニュースやバラエティを見ながら
気兼ねなくくつろげるのはなかなかいいものですよ。

出先で食べるサラメシ

出先で食事をとる場合
私はあらかじめコンビニなどでパンや弁当を買ってトランクにいれておき、
待機時間を活用して
においに気を付けながら車内でささっと済ましています。

当然ながら
仕事中はお客様の動きにすべてを合わせていきますし
突発的に予定が変更される場合もありますから
いったん出庫したら、極力車から離れないようにしています。

ですから、眠くならないように空腹をしのぐ程度に食物を摂取するというのは
先のバス運転手と同じで
基本的にまともな食事はできないと覚悟しています。
ところがベテラン乗務員さんの中には
食べることが何より好きで
あちこち料理のうまい店を探しながら
上手に時間を調整し、食べ歩きしている人がいます。

特に、子供も手を離れ
後は定年まで数年間務めあげればよしといった
年配の方達に多く見受けられますね。

そういう人たちは自分のぺースで
ゆったりと仕事をこなしていて
何とも羨ましい限り。

こっちは未だ家族のために、子供たちを養うために
今日も行きつけの食堂で質素なサラメシを食べている・・・

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これがハイヤーマンのサラメシの現実であると
ご理解いただけたでしょうか。