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いくら性能の良いクルマであっても、そのクルマの運転席に座りハンドルを握るドライバーの腕によって車の価値を引き出せるかどうかが左右されてしまう・・・。
言われてみればごく当たり前の話ですが、特に運転を職業としている人にとっては重要なことです。
以前、駆け出しのころにお客様から酷評をいただいたり、運転を褒められたことがあって、そのいきさつを記事に書きました。
「おたく最低だね…」新人時代の苦い思い出
「あなたは運転がうまいね」と褒められた話をします
しかし、その後ここ数年間(6年ほど)はとんと音沙汰なしだったのですが、先日、乗車されたお客様から思わぬ運転評価をいただいたので、ここでご紹介しようと思います。
同じ車種の乗車感の違い
それは、小金井カントリークラブにお客様を迎えに行った時のことでした。
二人で乗り込んでこられ、羽田空港までの移動中にあれこれと仕事に関してのやり取りをされていました。そして途中話題がぱたりと途切れて、ちょっとした沈黙が続いたのです。
一人がその沈黙を嫌がって急に話題を変えて話し始めたのが車の運転についてのことでした。
「この車ってレクサスのグレードは何ですか?」
話の切り出しに、私の背中に向けて言葉を投げて来られました。
「最新モデルでLS500のハイブリッドですが…」と答えると
「なるほど、じゃあ本社にある車と同じグレードのレクサスなんだね・・なのにこうも違うものかね。別の車に乗っているような感覚になるな・・・」
と、ぼそぼそと独り言のように語り始めました。
話の内容を要約すると、お客様は、本社を地方都市に置く会社の役員で、利用する役員車は諸事情から専属の運転手を持たず、契約しているハイタク会社からその時々にドライバーが送られてくるというのです。
それで、今回上京する直前にお客様が乗った車に、普段タクシ―に乗る乗務員が充てがわれ、私の運転する車種と同じレクサスのハンドルを握ったというのです。
「やたら急発進・急加速をするのよ。
黄色に変わった信号に敢えてアクセルを踏み込んで通過しようとするし、無意味な加速やブレーキを踏んで前のめりにさせられたり・・・何をそんなに焦っているのか・・・」
と普段、車に乗ったら意識もしない乗務員の運転の癖に気が奪われて、ただただ不安にさせられたという話でした。
普段の意識や考えが運転に影響する
これって、どう思うかと意見を求められる空気になって、私はマスクを下にずらして口を開きました。
「タクシ―運転手ならありがちのことです。
タクシ―は走行距離によって料金が決まりすし、急いでいるお客さんを乗せる機会が多いので、ちょっとでも早く目的地に行かなければという気持ちが運転にも表れてくるものなんです。」
こう説明をしながら、ハイヤー乗務員志望者にはタクシ―研修をする必要はない。なにせタクシ―に乗ると運転に悪い癖がつく。直すのに時間がかかるんだ・・・
入社してまもないころに当時の指導教官から言われた言葉が脳裏をかすめていきました。
本人の性格的な問題もきっとあるでしょう。乗りなれない車だからという理由もあるかもしれません。原因は色々考えられますが、いずれにせよ、普段からどういう意識や考えをもって運転しているのかが如実に表れて、それを後部座席に座るお客様は敏感に感じ取っているということを改めて知らされたのでした。
きっとそのドライバーは、タクシー利用者のためを考えた運転をしてきたんでしょう。話を聞けば聞くほど、タクドラの典型だと思いました。責めないでほしい。それよりも、その乗務員を送ってよこした営業所の配車デスクの方が問題じゃないか・・・
さすがにそこまで口に出しませんでしたが・・・
人が足りないらしい・・というのが本社の社用車に専属運転手がいない理由なのだそうです。人材のいる東京とは違って、地方の苦しい諸事情を垣間見ました。
運転の仕事は独りよがりになりやすい
普段、ひとりで仕事をしているせいか、事故を起こしたり、お客様からクレームが入らない限り「うまくやっている」といった評価を会社から受けているわけです。実はそれが、独りよがりになる大きな原因ともなり、悪癖がそのまま温存される結果を生むことになっています。
そもそもタクシーもハイヤーも、マイペースで仕事ができて、しかも、お客様をのぞけば、わずらわしい上下の人間関係もそれほどなく、業務中は自分のやり方に誰からの指摘も受けない、いってみればストレスフリーな職場なのです。
だから、今回のように、同じ車種の車に乗ったのに、運転手によって乗車感が大きく変わるといった、いわば自分が相対的立場に置かれて比較され評価されるということがない限り、なかなか自らの仕事ぶりを顧みることはないでしょう。
いい仕事がしたい
生活のためとはいえ、どうせ仕事するならいい仕事をしたいと思って頑張っている人がおられると思います。私も同様です。しかたなく・だとか、やらされた感で仕事をやりたくない。自分の車を利用する人に、何らかの良い影響を与えたい、あるいは感謝されたい、ありがとうの言葉をもらいたいと思っています。
業務経験が長くなってくると、気持ちも仕事のやり方も基本から逸脱していきがちですが、この一件で受けた気付きは、自分の現在地を照らし、初心に帰るよう仕向けてくれた貴重な体験となりました。
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