社長の席が一つであるように、運転手の席も一つ──社長専属運転手という重責

 ■役員付運転手

唯一無二のポジションが持つ意味

会社の頂点に座る「社長」の椅子は一つしかありませんね。

そして、その社長をお乗せする「社長付き運転手」の椅子もまた一つです。

役員運転手として働く人の中でも、社長専属の担当者に選ばれることは名誉であり、同時に大きな責任を伴います。私は過去、ある上場企業の社長付き運転手を数か月担当した経験がありますが、そのときに痛感したのは「この位置は偶然の巡り合わせでありながら、非常に重い意味を持つ」ということでした。

教官の忘れられない一言

かつて研修の際、教官がこう言った言葉を今でも忘れません。

「勘違いしないでほしいが、君たちに何かの実力があって今ある立場があるんじゃないんだ。会社の看板と実績があるからこそ、今の君たちの位置が確保されているのだ」

これは有名な上場企業の役員車担当となった新人運転手への戒めでした。要するに「おごるな、調子に乗るな」という警告です。

最初は「何を上から物を言っているんだ」と反発を覚えました。しかし、よくよく考えてみると理解できる話だったのです。

上場企業の役員ポストに登り詰める人は、高学歴や実績に裏打ちされたまさにエリート「人財」。大手上場企業なら傘下に従業員が1万人を優に超える会社もあり、そのトップの椅子に座る人物は、ビジネスにおける大きな舵取りをしています。

そんな人物とある一定時間であっても共に過ごし、その人の仕事の一部分を担当しているとなれば、仮に単純な空港送迎であっても、そこに問題が発生したら大事になる。時に数億という商談が吹き飛ぶ可能性だってあり得るのです。

このように深く考えれば考えるほど、担当運転手の責務は想像以上に大きいのです。

腹を括る覚悟と求められる資質

あれこれと、そこまで深く考えてしまうような「繊細さん」には、正直この仕事は務まらないかもしれません。

逆に「そうなったらそうなったで対応すればよい。そもそも会社が自分を選んで送ったんだから、最終責任は会社がとる」という開き直り、腹を括る覚悟が必要です。

私が見るに、社長付きとなる運転手はそれなりに腹の座った度胸がある人です。学力や交渉力においては劣るかもしれませんが、ホスピタリティにおいてはしっかりしたものを持っている。責任意識や配慮においては、その会社の社員にも劣らないものを持っているからこそ、乗車する社長も安心して車に乗り込んでくるのです。

会社はそういう腹のある人物を選び出して企業に送り込んでいるようです。

自慢したくなる誘惑という落とし穴

ただ、この仕事には落とし穴もあります。

旧友と会ったときに気持ちが緩むと「今、社長を乗せてるんだよ」とつい口にしてしまう。すると「どこの会社?」と突っ込まれる。ここで「○○社だよ」と答えれば、「すごいね・・・」と相手の目は一気に羨望に変わります。

その瞬間、あの教官の言葉が頭をよぎるのです。

「君の実力じゃないよ、会社の看板があるからだ」。

自分の実力でもないのに、人の肩書きを借りて自慢しているな・・・奢るなかれ。

社長のタイプで天国と地獄に分かれる場合

さて、社長にも大きく二つのタイプがあります。

創業社長と雇われ社長という分け方。

創業社長の場合

創業社長、オーナー社長の運転手は、結構大変だという印象を私はもっています。

なにせ自分一代でゼロから起業し、運転手を抱えることができるところまでのし上がったつわもの、やり手です。ワンマンな人が多く、自分の気に入らない運転担当者は即交代させる。こうした社長に付いたドライバーがストレスで心身を壊したという話もよく耳にしました。

個性の強いカリスマ的存在となると、そんな人でも手の上で転がせるくらい腹の座った運転手でないと務まらないのですが、どの会社も人材不足です。営業担当も頭を抱えつつ、入社まもない新人を敢えて送り出すケースもあったりするのです。お客様からダメ出しを食らうたびに人を替えて必死に対応している現場を目撃したこともありました。

可哀そうに、いわゆる出禁となった担当の中には、会社を去ってしまう人もいました。

雇われ社長の場合

一方、上場企業の中でも創業が50年を越えてくる会社になると、いわゆる雇われ社長となります。組織人として穏やかな人が多く、運転担当者をねぎらう人もいて、仕事がやりやすい面が多分にありました。

それと残業規制問題以降、担当者が社長や会長に単独でつくというケースが徐々に減ってきています。これはリスク管理の面も加味されているのですが、担当者を二人立てた勤務体制とするケース。

以前はメインとスペアという体制で、メイン担当の休みや突発的な問題発生時に代務として入っていたスペアが、仕事量を二人で均等に分担して社長を担当するようになるケースが出てきています。実働時間、残業時間が削られて実入りが少なくなるため、稼ぎたい人にとっては歓迎されない体制なのですが、会社の方針ということで仕方ありません。

しかし、タクシーと違って自分の給与をコントロールすることはなかなか難しいので、こればかりは 運に任せるしかないのかなあ。

一席しかない椅子に挑む覚悟

一つしかない椅子に誰が座るのか。大企業では社長交代となると後継に誰がなるのか注目されますね。しかし、役員車の担当者の場合はそんな注目はまったくありませんよ。自分の所属会社が選出した人を送るだけです。

時折、社長に気に入られた運転手がいます。家族ぐるみで交流するような間柄になったりして、挙句の果てには、社長の座を退き、他の系列会社に出向するようになっても、担当していた運転手を連れていくというケースもレアですが、ありました。

社長も「人」です。お気に入りを放したくないという気持ちからこうしたケースも生まれるのですね。

一人の人に仕える覚悟がある人へ

ハイヤー運転手は基本的に日々お客様が変わりますが、役員付運転手は担当のお客様だけを考える専属となるので、ある意味、自分を気に入られるかどうか、その評価を受ける覚悟が必要だということです。

人は直感的に、ああ、この人あかんな、とダメ出ししたり、逆に、なんとなく「馬が合いそうだ」と、根拠ない評価のもとでいいねの決定されることもある。そこを理解した上で、臨む覚悟は必要だと思います。

特にハイヤー会社に所属して、途中から上司に声をかけられ、役員専属の仕事を依頼される場合には、基本的に受け入れざるを得ないでしょうが、特に役員担当は、その人や企業から気に入られると、10年以上担当することになるというのも頭の片隅に置いておいてください。

社長担当の運転手は自分磨きを

すでに社長担当されている方は、何等かの自分磨きをする必要があるのではないでしょうか。

あなたが内面でモチベーションを高く保ち維持していることは、企業の舵取りをする社長にも見えない影響を与えることになるでしょう。なんなら徹底的にその企業研究をして、トレンドの情報をそれとなくささやいて反応を見てみるといった大胆なこともやってみるのも刺激的ですよ。

運転技術は車の性能の向上で、ほとんど誰が運転しても大きな差が生まれませんが、安心感、信頼といった、いわゆる目にみえない部分は人によって大きく違いが出てきます。

慣れてくれば後ろに誰を乗せていようが関係なく走れるというのも正直なところであります。だからこそ、自分磨きを怠らず、日々何かに挑戦している「私」をつくる必要があると思うのです。

せっかくいただいた「たった一つのポスト」を担当しているのですから。

今日もハンドルを握りながら、私は心の中でこう言い聞かせています。

「感謝を忘れるな。誇りを持て。自分を磨こう。そして決しておごるな」と。

 

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