同期入社の同僚との別れ 試用期間90日のドラマ

「今月限りでやめるからさ・・・」
「えっ、どうして???」
「ミスや事故が続いちゃってさ、タクシーに行けと言われたんだ」
「ええっ そうなんだ…

でも、事故って、いつやったのさ」
「先週の朝礼で、第一原因事故を紹介してただろ、あれ俺がやったんだ」
「そうなの」

営業所の皆の目につくところにでかでかと事故の詳細な状況が張り出され、
乗務員に注意を喚起するのですが、
先週の事故が彼の起こしたものだったとは…

「タクシーは頭にないよ。だからもう就活始めた」

どんな職種でも、入社後3か月は試用期間として社員を研修し、適性を見ます。
ハイヤーは技術職といえますから、
営業や接客経験が豊富であれば、車の運転技術、
地理の知識さえマスターすればよいわけです。

しかし、
90日の間ミス、クレーム、
そして第一原因の事故(自分の過失による事故)があった場合は、
それらの内容によりますが、
会社側は試用期間の延長やタクシー部への配属、
最悪では雇用を却下することもあります。

「いい人なのに惜しいなあー」

そんな声を聞きながらも辞めていく人がいるんですね。

「ハイヤーだけが仕事じゃないからな」

と慰めの言葉をかけながらも
明日は我が身かと、同期メンバーは内心深刻に受け止めています。
会社が我々をどう扱うか、静かに見守っているわけです。

ちょうど、飛行機の離陸から安定高度を取るまでの期間と似てますね。
滑走路から離陸するときに最大の力を必要とし、燃料を消費します。
また、もっとも危険な期間でもあるからです。

毎日が緊張の連続で、気の弱い人だとプレッシャーに負けて、
それがミスや事故につながるケースが多いのです。

タクシーに配属された場合、
再び同じ会社でハイヤー乗務員となるのはなかなか難しいでしょう。
リベンジするという強いモチベーションを維持し続けることが困難だからです。

ですから、ほとんどの人が同業他社に籍を移して
再度ハイヤーにチャレンジするんですね。

一般の認識のように、新人達も、
タクシーよりはハイヤーの方が格が上だと見ているようで、
業界を知れば知るほどハイヤー乗務員になりたいと思うのです。

私はかつて研修時、
ちょうどタクシー部の研修者数人と話す機会を持ちましたが
私がハイヤー乗務員として研修を受けていることを知ると、
羨望の目で私を見始めました。

「どうして、ハイヤーに応募しなかったのですか?」
「求人がなかったようなのです。」
「それはうそだ、常に募集しているけど・・・」
「えっ そうなんですか?」

彼はハイヤーの求人広告を目にしなかったようなのです。
この時ほど私は
今の職種に就いているというのは、
そこになにか不思議な「縁」があると実感しました。

試用期間90日のドラマは人それぞれ違います。
しかし、その期間真剣に取り組んだ人には、
後々見えない財産となっているようです。