葬儀の仕事

「○○さん、今日は葬儀の仕事をお願いします。
2台口で、お付けする場所は安楽寺五雲閣。
桐ケ谷斎場までの往復となります。
現地にいったら、向こうの係りの人の指示に従ってほしいんだけど
もしかしたら、出棺の手伝いを言われるかもしれないから
その時はよろしくね。じゃあ、はい、これ。」

渡されたのは指示書と地図、そして黒ネクタイと白手袋
冠婚葬祭にハイヤーが利用されますが、
葬儀の場合、葬儀社からの依頼がほとんどで、
時には、人手不足を理由に斎場と寺、葬式会場などの送迎だけでなく
その葬儀のお手伝いを要請されることがあります。

先日行ってきた葬儀の仕事もそうでした。
行ってみると、親族一同が集まっていましたが、
人数は全員で10人にもなりません。

なるほど
これじゃ手伝いが必要だな

亡くなった方は年齢にして50代の女性
写真を見ると、けっこう自由奔放に人生を謳歌してきた人のようでした。

なぜそう感じたかというと、
参列者にあまり悲しんだ様子がなかったからなのです。
やけに客観的で、どこか明るさもありました。

結婚している人とは思えず、独身で過ごし、好きなことをやって、
何か病気などで生涯を閉じた人のように感じられました。
kirigaya saijo.jpg
指示されるまま会場に入ると
中央に棺が安置されていました。

すでに葬式は終わり、これから出棺して斎場に向かうという段取りで
すでに会場の片づけが始まっていました。

あわただしく葬儀社の人が動いている中で
おもむろに職員が中央に置かれた棺の蓋を開けるではありませんか!

おいおい、
ねえ、ちょっと待って・・

なんの心の準備もないところに
そんないきなり開けられては・・・

あまりにその係りの人が淡々と「仕事」の一つとして
流れるように手際がよいので
あっけにとられ、一瞬足がとまってしまったと同時に
私の目に棺の中に安置された遺体の姿が飛び込んできました。

そして視線はすぐさま顔に向けられます

あれ?
顔立ちは、霊前の写真とは似ても似つかないもの。
老婆のような姿で、まるで別人です。
改めて位牌を確認すると、享年52歳
そこにはもう魂のない抜け殻だけが横たわっているという感じでした。

私はこの時、93で亡くなった祖母の葬儀の記憶がよみがえりました。
その時も、棺に安置された姿は生前のふくよかな姿とは似ても似つかない
姿になって、まさに、魂のない抜け殻のような状態でした。

この時ほど
人間は死ねば魂が肉体から離れて「あちらの世界」に行くんだなと
実感したことはなかったのですが、
この日、久しぶりに人の死んだ姿を目の当たりにして
その感覚が甦ってきたのです。

「ちょっとお願いします」

声をかけられて
ぐるぐると頭の中で駆け巡っていた追憶の情景は閉ざされました
打ち合わせにあったように霊柩車に棺を入れる時に我々も手伝うことになりました。

葬儀専門車両を扱う会社

ちなみに
葬儀の時に使用する霊柩車にも、「運転手」がいるわけで
かれらは葬儀専門の車両を保有している会社の社員です。

葬儀には、霊柩車のほかにワゴンやバスがあり
葬式会場から火葬場まで棺を運ぶ
いわゆる「霊柩車」のほかに、
病院から遺体を搬送する「寝台車」と呼ぶ車も扱っています。

この日はクラウンの霊柩車でしたが、
リンカーンやマーキュリーといった外国車もあって、
ここにもグレードがあるようです。
この時の運転手はまだ30代の若い人だったのでちょっと驚きました。

斎場(火葬場)の控室

先頭の霊柩車に続いて斎場(火葬場)まで車を走らせ、
到着後、だいたい1時間ほど待機するのが普通です。
車を駐車場につけたら、乗務員たちは敷地内にある控室などで時間をつぶすわけです。

控室にはどこも茶菓子が準備してあり、喫煙所もあって
運転手だけでなく、その斎場の職員も利用していました。

火葬が終了すると控室に案内放送が入るため
いちいち様子をうかがわなくてもよいことから、
ちょうどよい息抜きの時間になっています。

仕事で来ている人たちは
同僚となにやらとりとめない話をしています。
この時間も次々に人生の幕を閉じる人の遺体が斎場に送られ、
悲しみに暮れている参列者もいるというのに・・・

控室は平和そのもの
わたしは控室を出て
火葬する場所の方に行ってみました。
すると、号泣する一団があって
その声がある瞬間頂点に達し、場内全体に響きわたりました。

遺体が火葬されるために
窯の中にいれられた時だったようです。
しばし、むせび泣く声が続きました。

一方私たちのお客様は
少ない人数で最初から最後まで淡々としていました。
遠くから見ていると
このあまりのギャップに複雑な気持ちを味わっていたのは
私だけだったのでしょうか・・・

私が外でポツンと立っていたものですから
駐車場の係員が近寄ってきて車の位置を指示してきました。

心付けはどうなってる?

さて、
斎場から出てこられた御客様たちを目的地に送り届けてそこで我々の仕事が終了となるのですが、
この時主催者からの心付けが渡される場合があります。

葬儀なのに、これを楽しみに仕事をするベテランさんたちが結構いて
デスクで葬儀の仕事を振られると
近くにいた同僚が
「今日は葬式か? ちゃんともらって来いよ」
なんて声をかけられます。

そして、営業所にもどってくると
「おい、どうだった? もらった?」 
と、これまたおせっかいなチェックが入ったりして・・・

この葬儀の心付けに関しては
一般的な慣例で主催者が出すようにしているようですが
我々運転手の手に渡らない場合があります。

これはあくまでも慣例ですし、
出たかどうかを確認する術はありません。

ただし、時折主催者は出しているのに、葬儀社や、一括して渡された担当者が、
いわゆる、自分の懐にそっと収める場合もあるんだとか。

そういった不正を暴いたことがあるんだ!
なんて武勇伝を語る先輩もいるほどです。

人の不幸に乗じて、なんと不謹慎な!

屍を巡ってここでも金のやり取りがなされる現実があります。
もちろん仕事中はそんなことは億尾にも出しませんが・・・
正義感の強い人は

狸の集まりだ!

といって、こういう輩を批判しますけど・・・

営業所にもどるや、半ば冗談交じりに
心付けにありつけなかった不満をぶちまけてうっぷんを晴らし
さて、次の仕事へ・・・

ともあれ、ハイヤーは、こういった人生の節目を彩るお手伝いをしています。