お客様の判断 あなたはどう思います?

「17時30分にまたここに出てきたらいいの?」

その問いかけに私は少しためらいながらも

「はい、お願い致します。」
そう返事を返すと、お客様は狭いエントランスに吸い込まれていきました。

イイノホール 車寄せ入口

内幸町にイイノホールという講演会や会議などで利用される場所がありますね。そこから羽田空港18時30分発の国内線に搭乗する予定でした。

霞が関ランプが目と鼻の先にあるし、羽田は第1ターミナルにあるJAL VIP口にお送りすることになっていたので、遅くてもフライト時間の20分前に滑り込めばよい
つまり、空港まで40分の持ち時間があるという計算です。

しかし17時半お迎えといったものの、その時間は徐々に首都高が混みだす時間帯ですよね。
本当なら、もう15分早く出てきてほしいところ。
ですから、お客様に 「はい」と返事をしたその声に一抹の不安をにじませたのです。

夕方の羽田空港方面 下りは意外と車の流れが良い

都内から羽田空港まで高速を使う場合、経路は大きく二通りありますね。
レインボーブリッジを渡って湾岸線を使うか、それとも1号横羽線でいくか

もし空港トンネルで何か問題が起きていれば、直前に分岐する東海ジャンクションから横羽線に入り、空港西から出るという方法もあります。

羽田空港送迎は何度も経験していて、夕方の時間帯でも羽田方面は湾岸線も横羽線も意外と車の流れがよいのです。仮に渋滞となっても、いくつかの回避経路が頭の中にあるので気持ちに余裕もありました。
ただ、心配といえば、一つ、首都高は5時半ごろから都心環状線3号、4号、5号線の下りの渋滞が徐々に激しくなるので、霞が関から高速に入った時に、その影響があるかどうかでした。
イイノホールの車寄せには、駐車スペースがないため、取り敢えず、電話連絡を受けたらすぐに車を回せる場所に移動し、待機することにしました。

夕方の10分の重み

さて、時計は17時をまわろうとするので、一応車載の携帯の充電状況を確認し、スタンバイをしたのですが、約束の17時30分を迎えても、その後5分過ぎてもお客様から連絡が来ない

ちょっと待ってよ。時間を守って出てきていただかないと、こっちとしては責任もてないからね・・
このときばかりは、珍しく心の中でもう一人の短気な自分がぶつぶつ文句を言い始めました
そして手元の時計の針が17時40分を指したときに車載の電話が鳴りました

「もしもし、さっきおろしてもらったところにいます」
「はい かしこまりました。すぐに参ります。お待ちください」

御客様は御付きの人に見送られながら車に乗り込まれると、特に時間に関しての言及はなく、無言のままカチッとシートベルトを締める音だけが静かな車内に響きました。

私は「空港に参ります」と一言添えて発車。このままサクッと高速に乗れたら良かったのですが、イイノホールの車寄せからでると、一方通行の道となり、そこには信号待ちで数珠繋ぎとなった車の列。
しかたなく、この信号待ち時間を利用して首都高の道路状況をみると、都心環状線はすでにところどころ赤くなっていました。

まずいな・・・だんだんと焦りのモードに。
ほんの1、2分で高速入口に行けるところなのに、官庁街には車が多く、しかも信号にことごとくひっかかる始末。
これは想定外でした。
おかげで霞が関ランプから本線に合流したときには、5時50分を回っていました。

時間設定は誰がしたのか

渋滞は時間帯によってある程度予想がつくので、それを考慮した時間設定をすべきなのは当然です。
17時30分に出発
これは配車伝票に明示されていた時間でしたし、40分あれば空港までお送りできるという自信が私にはありました。

しかし、お客様は17時40分に出てこられた。
10分遅く出てきたのです。
私は17時30分に出てこられたら責任を持つ
しかし、この10分の遅れは夕方の時間帯だからこそ影響が大きい・・・
いや、そもそもが、はじめからこういうタイトな時間設定だと不測の事態に対応が難しくなるので、もう少し余裕ある時間設定をすべきだった。一体だれが時間を決めたのか・・

待ってよ、やっぱりこれはお客様が遅れて出てきたせいじゃないか・・・
思い切りお客様を叱責するもう一人の自分も登場し、この日に限って、私の胸の内は実に騒がしいものでした。
高速入口の電光掲示板をみると

「谷町JCT → 芝公園 渋滞10分」

という表示が目に飛び込んできて
これは本当にまずい・・
前に車がつかえていて、40キロ程度しか出せない
ハンドルを握る手が汗ばみました

ハンドル.jpg

もしもフライトに間に合わなければどうなるのか・・・
このまま無言で車を走らせ、取返しのつかない段階で
“申し訳ありません、これでは間に合いません”と、音を上げることこそ無責任だし・・・
やはり、直面している状況を率直に伝えよう・・・

ようやく、自分の中で気持ちの整理がつき、後部座席のお客様に対して
「恐れ入りますが、6時の時点でレインボーブリッジを渡れないと、フライト時間に間に合わなくなる可能性が高いのですが・・。」

本当はこういう事を口にせずに、何事もなかったような澄ました顔で搭乗時間に間に合わせたかった・・・。
しかし、今回の中途半端な状況下では、正直いって、行ける!という確信がもてませんでした・・・

お客様によって対処の仕方は違う

予定時間がひっ迫している時にどうするのか、人によってその対処の仕方は違います。
ぎりぎりに滑り込むといったことをとても嫌う方はあえて無理をせずに、車内にいながらスマホやタブレットで搭乗予約を変更する人がおられますし、役員クラスの方であれば、秘書に電話して、さっさと搭乗便を変更して、お客様本人も安堵されます。

中には運転者をねぎらって
「一便遅らせたので、焦る必要はありませんよ」
こんな言葉を下さる方もおられます。
よっぽど私の背中から焦りのオーラが出ていたんですね。

しかし、ハンドルを握る者としては、こういう配慮は本当にありがたいものです。
やはり状況を正確にお伝えした方が、お客様の次のアクションがとりやすいことはいうまでもありません。私としては、責任を放り投げるようで、ちょっと不甲斐なかったのですが、とにかく、お客様の指示を仰ぐことに決めました。

今回のお客様の判断は

さて、今回のお客様の判断は・・・というと
私の予想は見事に裏切られてしまいました。

「わかりました。まあ行ってみましょう!」

妙に自信のある実に落ち着いた口調でした。
フライト時間の変更を予測していたのですが、強攻策のご指示で私も腹は決まりました。
どこに勝算があるのかわかりませんが、こうなったらやるしかないでしょう

アクセルを踏み込んで、レインボーブリッジを100キロで渡り切り、スロープをおりながら時計を覗くと18時5分をまわっていました。

時間.png

う~ン、これだと搭乗時間10分前到着かな・・・
VIP口につけるんだから、10分前なら対応してくれるだろう・・・


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